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大阪地方裁判所 昭和59年(行ウ)38号 判決

原告

植田肇

外七名

右八名訴訟代理人弁護士

辻公雄

竹川秀夫

井上善雄

小田耕平

国府泰道

原田豊

吉川実

松尾直嗣

斉藤浩

大川一夫

桂充広

阪口徳雄

被告

岸昌

被告

桝居孝

被告

中川淑

被告

川上勇

被告

岡崎義彦

右五名訴訟代理人弁護士

辻中一二三

辻中栄世

森薫生

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、大阪府に対し、金四六四六万三〇九七円及びこれに対する被告岸昌は昭和五九年四月二九日から、被告川上勇は同月三〇日から、被告桝居孝は同年五月一日から、被告中川淑、同岡崎義彦は同月二日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、いずれも大阪府下に居住する住民である。

(二) 被告らは、昭和五五年四月一日から昭和五八年三月三一日までの間に、それぞれ次の地位にあつた(括弧内は在任期間である。)。

(1) 被告岸昌 大阪府知事

(2) 被告桝居孝 大阪府水道企業管理者(昭和五五年七月一六日から昭和五七年三月三一日まで)

(3) 被告中川淑 大阪府水道部長(右同期間)

(4) 被告川上勇 大阪府水道部長(昭和五七年四月一日から昭和五八年四月三〇日まで)

(5) 被告岡崎義彦 大阪府水道部総務課長(昭和五六年四月一日から昭和五八年四月三〇日まで)

2  公金の支出

被告らは、昭和五五年四月一日から昭和五八年三月三一日までの間に、水道事業費、工事費、または接待費等の名目で五〇〇〇万円以上を自ら費消し、または、部下が費消するのを了承して、大阪府水道事業の公金を支出した。その方法は、水道部にある四課のうち会計課を除く総務課(総務係)、浄水課(業務係)、工務課(管理係)の各課で、幹部職員から突然手渡される飲食店の請求書をもとに、本来接待前に決裁を受けておかなければならない経費支出伺を事後に作成し、その際、接待の日時、場所、金額は請求書のとおり記載したり、四、五通の請求書をまとめて一回分として日時等を適当に書き込む等逆行処理をし、接待相手を大蔵省印刷局編の職員録から全官公庁の幹部職員名を重複を避けるようにして摘出して、接待役の役員名についても「接待日」に出勤していた職員名を適当に記入して支出するというものであり、被告らは、こうした手口で、昭和五五年から昭和五七年までの間に北海道、秋田、群馬等三五道府県の水道局、企業局、環境部の局長、部長ら約二五〇名の氏名を使用し、大阪キタを中心に約一五〇軒のバー、クラブ、スナックで総額五〇〇〇万円を費消した。

3  公金支出の違法

被告らの支出した金員は、名目が会議接待費とされているが、その名目に見合う会議接待は現実にはまつたく存在せず、右支出は、架空名義を用いて行われたものであり、明らかに違法または不当な支出である。被告らは、右支出の違法または不当であることを知りながら、自ら費消したか、部下が費消して支出することを認め、今日まで是正もせず放置してきた。

4  監査請求

(一) 原告らは、昭和五九年三月二日付で大阪府監査委員に対し、被告らの右公金違法支出について、地方自治法(以下「法」という。)二四二条一項に基づく監査請求を行つた(以下「本件監査請求」という。)ところ、同月二六日、右請求は、①請求内容に事実摘示の具体性を欠き不適法である。②法定の請求期間を徒過しており不適法である、③大阪府知事及び監査委員に対する措置請求について「財産の管理」に該当しない、として、いずれも却下された。

(二) 請求内容の具体性、特定性

(1) 監査請求は、行政の不正不当なことを正すべく、その契機ないし発議権を住民に付与したものであるが、右不正不当の内容は、行政側の内部事情であり、住民が資料に基づいて確定的なことを認識できないのが通常である。しかし、不正不当の要素があれば、これらについての監査を求めうるとされているのであり、右監査を求めるための具体性、特定性とは、行政を監視する職責のある監査委員において調査が可能となる程度に具体化し、特定していればよいと解すべきである。

本件監査請求は、昭和五五年度から昭和五七年度までの三年間に、総額五〇〇〇万円以上の架空接待があつたと主張して請求したものであるが、本件事案は、昭和五五年度分(昭和五六年一月から同年三月までの分)、昭和五六年度分(昭和五六年四月から昭和五七年三月までの分)、昭和五七年度分(昭和五七年四月から昭和五八年三月までの分)の工事諸費の会議費分全体が違法支出であるというものであつて、右主張もその趣旨であり、監査委員は、この主張にしたがつて、右各年度の会議費ないし関係項目の出費を調査することが可能であるから、原告らの本件監査請求は、十分な特定性を有している。また、右事実はすでに大阪地検特捜部において捜査されており、新聞報道においても公表されているものである。監査委員が右事実の監査を行うこと自体を懈怠したまま、原告らの請求に対して具体性を欠くと非難することは本末転倒であり、監査制度の趣旨を没却するものである。

(2) 原告らは、すでに、本件に関連する架空接待について、当庁昭和五八年(行ウ)第五〇号(以下「昭和五八年五〇号事件」という。)、同昭和五八年(行ウ)第八一号(以下「昭和五八年八一号事件」という。)、同昭和五九年(行ウ)第七号(以下「昭和五九年七号事件」という。)の各事件の訴訟を提起しているが、大阪府監査委員は、そのいずれに対しても誠実に真相の究明に協力せず、現在においても個々の違法支出行為について特定していない。そのために、原告らは、右各訴訟において請求していない部分について住民訴訟を提起するのであつて、前記五〇〇〇万円から支出の個別化している別紙違法支出行為内訳表(一)(二)(三)記載分合計三五三万六九〇三円を除く、少なくとも四六四六万三〇九七円については右各訴訟における請求と重複していない。

(3) なお、本件請求のうち具体的支出先が特定できるものは別紙違法支出行為内訳表(四)記載のとおりである。

(三) 監査請求の期間

監査請求は、法二四二条二項で一年以内という期間が定められているが、同時に同条項但書で「正当な理由があるときはこの限りではない。」と規定されている。原告らが本件監査請求を右期間内にしなかつたことについては、次のとおり正当な理由がある。

大阪府水道部での経費は、大阪府水道部会計規程、大阪府水道部事務決裁規程及びこれらに基づく事務処理の細目に関する定めにしたがつて、会議等の主催課で事前に経費支出伺を作成し、決裁を受け、その支出については、会議等の開催後、債権者である支出先からの請求に基づき、会議等の主催課において履行の確認を行い、支出伝票を発行することにより、金銭出納員に対して支出命令を出し、金銭出納員はこれを審査し、支出決定をして支出の手続を行うべきことになつている。ところで、本件の支出については、形式的には、経費支出伺、支出伝票等により行われているが、実際には右公文書に記載されているような会議等は開催されなかつたものであり、それにもかかわらず、これを秘匿し、虚偽公文書作成という犯罪行為をしてまでその違法行為を隠蔽してきたものである。右の違法な支出は、たまたま内部資料に接した者が、架空会議、架空名義での支出を発見し、これが新聞報道されることによつて公にされたものであり、原告らは、これによつて事実を知るに至つて検討し、関係者に当たるなどして、右の支出が違法支出であると判断して行動した。大阪府水道部においては、公文書上の会議等がまつたくなかつたことは認めたが、真の支払先についてはいまだに秘匿して、真実を隠蔽し続けているのである。

5  被告らは、前記公金違法支出によつて、大阪府に対して、少なくとも合計四六四六万三〇九七円の損害を与えた。

6  よつて、原告らは、被告ら各自に対し、法二四二条の二第一項に基づき、大阪府に対して四六四六万三〇九七円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(被告岸昌につき昭和五九年四月二九日、被告川上勇につき同月三〇日、被告桝居孝につき同年五月一日、被告中川淑、同岡崎義彦につき同月二日)から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  本案前の申立についての主張

1  本件監査請求の不適法性

(一) 本件監査請求の不特定

監査請求は、、個別的、具体的な行為の違法、不当を摘示し、その是正を求める制度である。本件監査請求は、大阪府知事及び大阪府水道企業管理者らに対し、三年間に五〇〇〇万円以上の違法な公金支出を行つたとして、右金員の返還を求めるものであるが、右の特定の方法では具体的な事実摘示を欠き、請求が特定されているとはいえない。

(二) 請求期間の徒過

本件監査請求は、公金支出の日から一年を経過した後になされたものであり、不適法である。

また、法二四二条二項但書の「正当な理由」とは当該行為が極めて秘密裡に行われ、一年を経過した後初めて明るみに出たような場合あるいは天災地変等による交通途絶により請求期間を徒過した場合等特に請求を認めるだけの相当な理由があることを指すものと解すべきであるが、本件の公金支出は、いずれも、大阪府水道部会計規程、大阪府水道部事務決裁規程等により支出伝票を発行して正規の手続によつてなされた予算の執行であつて、なんら秘密裡に行われたものではないから、原告らの監査請求期間の徒過には正当な理由はない。

2  被告岸昌の被告適格の欠如

原告らの本訴請求は、大阪府水道部の公金支出行為について、それが違法、不当であることを理由として法二四二条の二第一項四号に基づき被告らに対して損害賠償を求めるものであるが、大阪府水道部の公金支出行為は同水道部の業務の執行の一にほかならず、右は企業管理者の権限に属するものであり、普通地方公共団体の長である大阪府知事の権限とはなんら関係がなく、同知事である被告岸昌は本訴に関して法二四二条の二第一項四号の「当該職員」に該当しないから、同被告は、本件請求の被告適格を有しない。

3  二重起訴

原告らは、すでに、本件に関連して、昭和五八年五〇号事件、昭和五八年八一号事件、昭和五九年七号事件を提起しているが、昭和五八年五〇号事件で請求している合計二四八七万円、昭和五八年八一号事件で請求している九〇万八七九〇円及び昭和五九年七号事件で請求している一二八万八〇二三円の総合計二七〇六万六八一三円については、本件請求と重複しており、この範囲において本件訴えは二重起訴に当たる。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2、3の事実は否認する。

3  同4の事実のうち、(一)は不知。(二)のうち、大阪府水道部において昭和五五年度から昭和五七年度までの三年間に、総額五〇〇〇万円以上の架空接待があつた旨の新聞報道があつたこと、原告らが、本件に関連して、昭和五八年五〇号事件、昭和五八年八一号事件、昭和五九年七号事件の訴訟を提起したことは認め、その余の事実及び主張は争う。

4  同5の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実及び大阪府水道部において昭和五五年度から昭和五七年度までの三年間に、総額五〇〇〇万円以上の架空接待があつた旨の新聞報道があつたこと、原告らが、本件に関連して、昭和五八年五〇号事件、昭和五八年八一号事件、昭和五九年七号事件の訴訟を提起したことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実並びに〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告らは、大阪府の住民であるが、いずれも、昭和五五年末に政治や行政を監視する目的で弁護士、公認会計士、税理士らにより結成された「市民オンブズマン」と称する民間団体の構成員である。

2  大阪府の水道部は、大阪府の水道事業及び工業用水事業を経営する企業の管理者の権限に属する事務を処理させるために、大阪府に設けられた組織である(地方公営企業法一四条参照)。大阪府水道部での会議費等の支出は、大阪府水道部会計規程等にしたがい、当該会議等の主管課長が、事前に経費支出伺を作成して決裁を受け、会議等の開催後、債権者である支出先からの請求に基づき、右事実の確認を行つたうえで支出伝票を発行し、これに経費支出伺、債権者の請求書を添付して、総務課長を経て金銭出納員に送付し、金銭出納員が、これを審査し、支出決定をして小切手を振出して行うことになつているが、大阪府水道部では、事前に経費支出伺を作成して所定の決裁を受けることなく飲食店で接待等を行い、事後において官公庁の職員録等から適当に摘出した氏名を用いてその職員と大阪府水道部の職員が会議等を開催することを仮装して架空の会議等についての経費支出伺を作成し、その後の履行の確認等所定の手続を履践せず、さきに現実に行われた接待等を隠蔽したまま、その経費の支出を行つていたとの疑惑が持たれ、昭和五七年一二月、大阪府議会決算特別委員会において、一府会議員により右疑惑が追及され、これが公になつた。

3  原告ら「市民オンブズマン」の構成員は、右違法行為につき、大阪地方検察庁に告発するとともに、昭和五八年四月二八日、同年五月三〇日、同年一一月一六日の三回にわたり、大阪府監査委員に対し、監査請求を行つた。そして、原告ら(但し、原告株式会社岩崎経営センターを除く。)は、大阪地方裁判所に対し、右公金支出当時の大阪府水道企業管理者、同府水道部長、同府水道部次長、同府水道部総務課長、同府知事らを被告として、右違法支出金の大阪府への支払を求める旨の昭和五八年五〇号事件(昭和五六年度大阪府営水道事業会計にかかる第七次拡張事業費の工事諸費中の会議費二四八七万円につき、別紙違法支出行為内訳表(一)記載の合計一三四万九〇円はその一部である。)、昭和五八年八一号事件(別紙違法支出行為内訳表(二)記載の合計九〇万八七九〇円につき)、昭和五九年七号事件(別紙違法支出行為内訳表(三)記載の合計一二八万八〇二三円につき)の各訴訟を提起した。

4  その後、毎日新聞は、昭和五九年二月三日、「架空接待五〇〇〇万円超す」等との見出しで、大阪府水道部において不正に支出された公金は、昭和五五年から昭和五七年までの三年間で、市民オンブズマンが大阪地方検察庁に告発した額の二〇倍である五〇〇〇万円以上にのぼる旨及び架空接待は、大阪府水道部にある四課のうち、会計課を除く総務、浄水、工務の各課で会議接待費が予算を超過すると、工事諸費などの名目で行われていた旨報道した。

5  原告ら「市民オンブズマン」の構成員は、この記事及びこれをきつかけとして原告ら方に寄せられた投書や電話での匿名の情報提供者らからの事情聴取により情報を収集したうえ、原告らは、昭和五九年三月二日、大阪府監査委員に対し、違法な公金の支出を証する書面として右新聞の記事を添付して、「昭和五五年度から昭和五七度までの間に大阪府水道企業管理者、同水道部長、同総務課長の職にあつた、被告桝居孝(元企業管理者)、被告中川淑(元水道部長)、被告川上勇(元水道部長)、被告岡崎義彦(元総務課長)らは、名義を仮装し、会議接待を行つたとして、会議接待費または工事諸費の名目のもとに、右各年度の三年間で五〇〇〇万円以上の金額を不当に支出し、または、部下の不当支出を決裁した、また、大阪府知事である被告岸昌は、財産管理について、通常必要な注意を怠つて、右の不当な行為が反復されているにもかかわらず、これを放置し、大阪府及び大阪府民に対する損害を防止する処置をとらなかつた。」旨主張し、右の支出額を調査すること及び被告らをして大阪府に対し右支出金額を連帯して返還させるべきことを請求した。これに対し、大阪府監査委員は、原告らの請求は、事実摘示の具体性を欠き、しかも法定請求期間を経過した後になされた不適法なものである、また、原告らの被告岸昌に対する請求は、その対象とする行為が法二四二条一項に規定する「財産の管理」に該当しない不適法なものであるとして、いずれもこれを却下し、昭和五九年三月二六日付でその旨原告らに通知した。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二本件監査請求の適法性について

まず、本件監査請求の特定性、具体性について検討する。

法二四二条の規定に基づく監査請求は、普通地方公共団体の機関または職員の違法ないし不当な行為等によつて負担を転嫁されることになる住民の利益を擁護し、右職員等の違法不当な行為を防止、是正するために、当該普通地方公共団体の住民に、監査委員に対して、監査と違法不当な行為の防止、是正等の必要な措置を講すべきことを請求することを認めた制度であり、監査の結果や職員等の措置に不服があるとき等には、訴訟によつて当該職員に対して当該行為を理由とする損害賠償等を請求しうることとして、右行為の防止、是正を実効あらしめるための法的強制手段が定められている(法二四二条の二第一項四号)。しかして、右住民監査請求の対象は、法二四二条一項に定める具体的な機関または職員の一定の具体的な財務会計上の行為または怠る事実に限られるのであつて、右監査請求においては、対象となる行為を他の事項から区別して特定認識しうる程度に個別的、具体的に特定し摘示することを要し、対象となる行為が複数ある場合には、各行為毎に他の行為と識別特定しうるよう個別的、具体的に事実を摘示することが必要であり、各行為を他の行為と区別できないような長期間にわたる多数の行為の包括的網羅的な摘示による監査請求は、不適法であると解するのが相当である。けだし、住民監査請求は、住民が具体的な違法行為等を主張立証して予防、是正の具体的措置を請求することとなる訴訟に前置された手続であることから、法七五条のいわゆる監査の直接請求とは異なり、その対象を包括的、網羅的な行政事務ではなく、一定の具体的、個別的な財務会計上の違法、不当行為等に限定したものと解されるうえ、法律関係の画一的安定をはかるため、住民監査請求をなしうる期間を、対象となる行為のあつた日または終つた日から原則として一年以内に限定している(法二四二条二項)ことからみても、対象となる行為が個別的に他の行為から識別される程度に具体的に特定されることが当然の前提とされているものと思われるし、また、そのように解しなければ、右期間経過の有無のほか、同一行為についての二重請求の存否等の請求の同一性の判断にも支障を生じて相当ではないからである。

これを本件についてみると、前記一の事実によれば、本件監査請求が対象とする被告らの行為は、「昭和五五年度から昭和五七年度までの間に被告岸昌を除く被告らは、名義を仮装し、会議接待を行つたとして、会議接待費または工事諸費の名目のもとに、右各年度の三年間で五〇〇〇万円以上の金額を不当に支出し、または、部下の不当支出を決裁した。また、大阪府知事である被告岸昌は、財産管理について、通常必要な注意を怠つて、右の不当な行為が反復されているにもかかわらず、これを放置し防止する処置をとらなかつた。」というものであり、その公金支出の時期は、昭和五五年四月一日から昭和五八年三月三一日までの三年間、三予算年度の長期にわたつており、右三年間の多数回にわたる支出につき、名目が会議接待費あるいは工事諸費と特定されているだけで、個々の支出についての日時、支出金額、支出先、支出目的等が不明で、その個別的な事実の摘示がまつたくなされていないのみならず、全体の支出回数も不明であり、支出総額も五〇〇〇万円以上という不特定なものであり、また、各予算年度別の支出回数、支出金額も明らかでない。このような監査請求は、結局三年間、三予算年度もの長期にわたる会議接待費、工事諸費名目の支出全部について監査委員に対し包括的な監査を求めることに帰するものであつて、前記の請求の対象となる財務会計上の行為等について個別的、具体的な摘示を求める法の趣旨に適合しない、請求の対象たるべき多数行為の包括的網羅的摘示として、不適法なものというべきである。

なお、原告らは、本件訴訟において、本件請求のうち具体的支出先が特定できるものとして、別紙違法支出行為内訳表(四)記載の支出を主張するが、監査請求の適法性の存否は、監査請求自体によつて判断すべきものであるから、その後の訴訟段階における主張の追加、補充は、監査請求の適法性の存否の判断に影響を及ぼすものではないといわなければならない。

したがつて、本件監査請求は、その余の点を判断するまでもなく不適法である。

三よつて、原告らの本件訴えは、適法な監査請求を経ていないものであつていずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官佐々木洋一 裁判官植屋伸一)

別紙違法支出行為内訳表(一)〜(四)〈省略〉

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